カミングアウトは罪な奴(R18)
世界平和
全ての男性が紳士となる場。そんな場所さえあれば、この世からあらゆる諍いごとが消えるのに。私はお通じの際、いつもこのことを考えてしまう。
留学生の教え
話は大学3年の頃に遡る。同級生のキム君が兵役のために休学・帰国するということで、その日は仲間で送別会を開いていた。
キム君は留学生ながら日本語も堪能で、なかなかの色男でもあった。遅めの反抗期を迎えていた私にとって彼は敵対勢力である。
(日本人彼女がいる留学生はどいつもこいつも女口調で話しやがって。なーにが日本留学だ。馬鹿野郎!!!!)
と一切声に出さない声で凄み、二十歳童貞なりの帝王学・平和維持活動に勤しんでいた。
そんな飲み会も終焉を迎える頃、彼が突然泣き始めた。流暢な日本語も影を潜め、たどたどしい日本語で訴え始めた。
『カエリタクナイ、日本ハナレタクナイ』
同情した。最も近い隣国とは言えども2年もの間、日本を離れることになる。大学院に進学しない仲間とは、2年後再開できなくなる。ネトウヨをこじらせていた私でさえ彼に同情した。ちなみにこのネトウヨ、この数年後、韓国での日韓戦において完全にキバが抜けてしまう。MAP歓楽街、30秒での落城であった。
話をもとに戻そう。本当に彼に同情した。寂しいよな。兵役期間は上官にいじめられるって聞くもんな。怖いよな。そんな彼への哀れみも、次の一言によって一瞬で我に返った。
『日本ハナレタクナイー、日本ノ風俗サイコ、カエリタクナイ…』
不純だった。NHKのプロフェッショナル風のナレーションで聴いてほしい。プロジェクトXの田口トモロヲ風でも構わない。もう一度いう。
不純だった。今の時間を返して欲しい。心からそう思った。
しかしながら同時に、彼がジョークを言っている可能性もある。好青年の彼はシモの話をいうキャラクターでもない。騙されているかもしれない。その余地に期待を抱いた。
『アア゛ー、ススキノ゛ォ、ススキノ゛行ケナイ…』
ここは九州である。九州男児の島、九州である。氷川きよし、KABAちゃん、IKKOの産まれた国、福岡である。
彼はいったい何を言っているんだろう。近くにいるはずの彼の会話が遠くで聞こえる。ああこれは自己防衛モードだ。本能がこの話を聴くなと言っている。しかしながら、意識の遠くの方から次々と新しい嘆きが聴こえる。
ススキノ、ヨシハラ、サカエ、トビタ、ナカス、マエハラ…
彼は日本全国の歓楽街をキレイに都道府県コード順に言ってみせた。今、彼に日本地図を書かせたならば、ショッキングピンクに塗りつぶしてしまうだろう。
自己防衛モードが解け、半ば呆れながら顔を上げると、そこには涙は消え、キラッキラとした笑顔で日本の風俗について語りだす彼がいた。浅田真央ちゃんのような純粋無垢な顔で卑猥なことを話す彼がいた。
カミングアウトとは実に罪な奴だ。これまでの鬱屈から解き放たれた本人を差し置き、聴衆を置き去りにしてしまう。多勢に無勢を覆す、このドリブルセンスまるでパク・チソン。HOTなマンUはひと味違うな、そう思った。
サムライ・ソウル
キム君のカミングアウトの要旨は次の通りだ。
・2年の留学期間で日本全国の風俗街を行脚した。
→ 我々には日本の美術館めぐりをすると言っていた。
・特に、ススキノとナカスが良かった。
→ ススキノを語る時が最も生き生きしていた。
・日本の風俗は外国人出入り禁止が多いので、日本人のふりをした。
→ バレた時は土下座して見逃してもらったという武勇伝だった。
彼は想像以上に日本について学んでいた。むしろ学び過ぎていた。既にサムライだった。ソウルから来た男は、サムライソウルを身につけてしまった。
かの志士、坂本龍馬は、武者修行や脱藩により土佐を離れ、日本全国を行脚した。海軍の育成と称して、武器を売って回った。特に、九州・長崎を好んだという。薩長同盟の際には土下座をしたかもしれない。
彼のサムライへのオマージュは我々の想像の凌駕していたのである。
魔法の空間
益々混迷を迎える日韓関係も、上半身で考えなければキバも抜け、親日となる。このことをヒントに世界平和を築いていきたい。
私は思う。ネット上でも度々起こるくだらない争いも、双方をあの桃色の待合室までキャリーしたならば、互いを引っかきあう爪もあっという間に切り落としてしまうだろうと。
私は思う。キャリー後に最上級の歓びに触れたなら、互いを罵り合う口もクリーンとなり、きっと仲良く酒を酌み交わすことができるだろうと。